人・ロボット間相互作用を日仏で研究する博士学生ヘライズ=ベッキスさんへのインタビュー [fr]
フランス人のダフネ・ヘライズ=ベッキスさんは博士課程最終学年の学生です。フランス国立科学研究センター(CNRS)と日本の産業技術総合研究所(産総研、AIST)によって設立された国際共同研究組織「AIST-CNRSロボット工学連携研究ラボ(JRL)」で博士課程を始め、現在はフランスのモンペリエ大学情報学・ロボティクス・マイクロエレクトロニクス研究所(LIRMM)で総仕上げに取り組んでいます。日本とフランスで進めている研究のテーマは、人とロボットとのインタラクション(相互作用)です。
ヘライズ=ベッキスさんはインタビューの中で、これまでの経歴、博士課程を始めるための契約に至る道のり、日仏共同研究ラボの研究者としての経験について語ります。
大学入学後の経歴をおおまかに教えていただけますか?
フランスで科学バカロレアを取得後、総合科学の学士課程に進み、すぐに情報学を専攻すると決めて、ソルボンヌ大学(旧ピエール・エ・マリー・キュリー大学)の情報学修士課程に進みました。修士課程の最後に沖縄科学技術大学院大学(OIST)でリサーチ・インターンシップを行った後、日本のAIST-CNRS共同ロボット工学連携研究ラボ(JRL)で、モンペリエ大学の協力のもと、人とロボットとの相互作用をテーマにした博士論文に取りかかりました。この協力のおかげで産総研で数カ月に及ぶ研究を実施することができました。現在はモンペリエ大学情報学・ロボティクス・マイクロエレクトロニクス研究所(LIRMM)のインタラクティブデジタルヒューマンズ(IDH)研究チームに所属しています。私の博士論文の研究指導者はガネシュ・ゴウリシャンカー(CNRS)、アンドレア・シェルビニ(LIRMM)、吉田英一(産総研)の3氏です。
研究テーマについて教えていただけますか?
一般的に人とロボットの相互作用に関する研究は、安全性にかかわる側面、障害物の管理、あるいは性能を対象にしたものが大半ですが、私の研究は人とロボットの関係を対象としています。これらの相互作用で人の感じ方に影響を与え得る要因を特定し、その特徴を明らかにしようとしています。これらの要因にはさまざまなタイプがありますが、私はロボットの振る舞いに着目しています。被験者約30人を対象とした実験で、ロボットの予測不可能性が人の感じ方に影響 ― 私はむしろ不快感と呼んでいますが ― を与えることが明らかになりました。私は研究指導者の支援を得て、協働ロボット「パンダ・フランカ」を使った実験を最初から最後まで考案しました。実験の構想を練り、ロボットの振る舞いをコード化し、データを分析したのです。
現在、影響を与える新たな要因の特定をめざし、フランスで実験を続けています。新しいロボットで実験を進めることが望ましいのですが、研究所に新型ロボットがあるとは限らないので、仮想現実(VR)を使った実験を計画することにしました。
これらの研究はロボットによる障害者・高齢者支援をはじめ、日常生活、飲食店、小売店へのロボット導入など、幅広い応用の潜在的可能性があります [1]。
JRLはフランス国立科学研究センター(CNRS)と産業技術総合研究所(産総研、AIST)によって設立された国際共同研究組織で、産総研つくばセンターの情報・人間工学領域に設置されています。
日仏両国の研究者は、とりわけヒューマノイドプラットフォーム「HRP-2改」を利用して、ロボットの機能的自律性の向上をめざして緊密に協力しています。主要な研究テーマは、ヒューマノイドロボットにおける作業や動作の計画と制御、知覚を通した人や周囲の環境との相互作用、認知ロボティクス、応用神経科学です。
JRL公式ホームページ
ロボット工学を志望したきっかけは?
私はいつも数学に魅了されましたが、コンピュータ科学については、学士課程でこの領域に臨んだとき、コンピュータ科学者に対する紋切り型のイメージにとらわれないようにしました。私はそこで教育熱心な教授から、遊び心にあふれたやり方で、コンピュータ科学やロボット工学を教えてもらいました。こうした中で、コンピュータ科学のあらゆる分野を知り、アルゴリズムとロボット工学に対する関心がますます高まりました。ロボット工学に対する関心は、ごく早い時期から熱中していたアニメ映画や漫画の文化にも由来しています。あまり科学的とは言えないアプローチですが、そこでもバイオニックロボットやヒューマノイドロボットに対する関心が高まりました。そこでソルボンヌ大学のコンピュータ科学修士課程のANDROIDEコース(分散エージェント、ロボット工学、オペレーションズリサーチ、相互作用、意思決定)に進みました。このコースはロボット工学や人工知能をはじめ、コンピュータ科学諸分野における人工知能の応用のような他の多くの分野を組み合わせています。
日本に研究滞在されましたが、この国を特に選んだ理由は?
一つには日本がロボット工学の研究水準が極めて高い国であること、もう一つには私が幼い頃から日本に夢中だったことがあります。とりわけ日本の文化作品のほか、空手のような武道にも影響を受けています。私は空手の芸術的な側面を高く評価しています。中学校で日本語を習い始め、高校、大学でも続けました。日本に対する関心は長い時間をかけて深まったのだと思います。私はアルジェリア系フランス人で、アラビア語を話す家庭で育ったので、ほかの東洋語を新たに学ぶことはとても価値のあることでした。
フランスの研究所における現在の経験と比べて、日本ではどのような経験が身になりましたか?
フランスと日本は極めて異なる国で、それぞれにポジティブな面とネガティブな面があります。今回の交流で仕事の面のみならず、個人的な面でも多くのことを学びました。
仕事面では研究の進め方よりも、もっぱら職場の雰囲気に違いを感じます。フランスでは同僚間の社会的な接触がより活発です。他方、日本での経験を通して、他者との相互作用にあまり依存することなく、職業上の厳密さを高めながら、自分の仕事により自律的に取り組むことを学びました。
私見ですが、日本はより落ち着いて穏やかにいること、自分の周囲を素直に見つめることに喜びを感じることを教えてくれました。
ロボット工学分野の日仏協力の展望について、とりわけ現在所属する実験室ではいかがですか?
両国間で研究者の移動を支援するツールが増えていることは、これらのテーマをめぐるより緊密な協力に向けたフランスと日本の意欲を表しています。
私がAIST-CNRSロボット工学連携研究ラボに接触を図ったのも、このラボの研究テーマに特に強い関心があったからです。吉田英一共同ラボ長、ラボメンバーのガネッシュ・ゴウリシャンカーCNRS研究員が、フランスの大学に籍を置きながら、ラボで研究ができるように資金計画を提案してくれました。そのおかげで日本とフランスで研究を進めることが可能になりました。AIST-CNRSロボット工学連携研究ラボに着任したとき、すでにモンペリエ大学の博士課程学生が3人いましたが、彼らは私と同じ条件ではありませんでした。さらに研究指導者が科学研究費補助金(科研費)を受給できるように尽力してくれました。モンペリエ大学と産総研の協力関係のおかげで、科研費を博士論文計画の枠内で使うことができました。1年後、もう1人の博士課程学生がこのタイプの助成を受けました。今日、さらに多くの博士課程学生がこの協力の恩恵を受けています。フランスのモンペリエ大学情報学・ロボティクス・マイクロエレクトロニクス研究所で博士課程の総仕上げをするため、ガネッシュ・ゴウリシャンカー氏がフランス国立科学研究センター、東京大学、科学技術振興機構(JST)が協力するERATO自在化身体プロジェクトを通して資金援助を受けられるようにしてくれました。
このように現在では、日本学術振興会や文部科学省などが提供する資金援助がほかにも多く存在し、日仏間の学生と研究者の交流への支援につながっています。AIST-CNRSロボット工学連携研究ラボでは交流がすでにしっかり確立されています。
同じ道を歩みたいと思う人たちにアドバイスはありますか?
情熱をもって取り組むことです。インターンシップや博士契約を見つけるのに苦労することもありましたが、日本とロボット工学への情熱があったからこそ、研究を断念するのを思いとどまることができました。好機や奨学金が極めて多く存在する一方で、情報が散在していることがあります。そこで日本や東アジアにおける多くの資金調達の機会に関する情報が集約されたホームページ「Open4Research」を閲覧するようお勧めします。一部の奨学金は在日フランス大使館ホームページにも掲載されています。資金調達には多くの種類があるので、探す手間を惜しんだり、教授に相談するのをためらったりしてはなりません。
[1] ダフネ・ヘライズ=ベッキスさんが発表したこのテーマに関する記事はこちら(英語)